1.争点
本件では、一審原告が保有する下記の登録商標(「本件商標」)と一審被告の下記「被告商品」に付された「あわ恋いちご」 (「被告標章」)との類否が争点になりました。具体的には、被告標章「あわ恋いちご」から「恋いちご」又は「恋」を分離抽出できるか否かが争点になりました。
本件は、結合商標における構成要素分離抽出の判断が予測困難であることを例示します。
【本件商標】 登録番号:第5006976号、指定商品:「いちご」など(31類)、商標の構成:

【被告商品】

2. 商標類否についての一審判決(大阪地裁令和7年7月17日判決(令6(ワ)5007号))
一審判決は、リラ宝塚事件最高裁判決の分離抽出基準を示した上、被告標章中「あわ」の部分に識別力がないことを根拠に、「恋いちご」の部分を分離抽出しました。一審判決は、具体的には次のとおり判断しました。
- 複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合のほか、商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められない場合には、その構成部分の一部を抽出し、当該部分だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許されるというべきである。
- 被告商品に、徳島県産との表記があり、かつ阿波踊りのイラストが描かれているという取引の実情に鑑みると、被告標章中の「あわ」は識別力を伴わない地域名称を意味すると理解される。そのため、被告標章から「あわ」を除いた「恋いちご」が分離抽出される。
- 本件商標「恋苺」と、被告標章の「恋いちご」部分とを対比すると、称呼(コイイチゴ)は同一であり、恋愛のように強く惹かれる苺という観念も共通する。そうすると、出所の誤認混同のおそれがあるので、本件商標と被告標章は全体として類似する。
3. 商標類否についての控訴審判決(大阪高裁令和8年2月13日判決(令7(ネ)1750号))
控訴審判決は、つつみのおひなっこや事件最高裁判決の分離抽出基準を示した上、一審判決を覆して商標類似を否定しました。控訴審判決は、次のとおり判断しました。
- 複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるものについて、商標の構成部分の一部を抽出し、この部分だけを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは、その部分が取引者、需要者に対し商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や、それ以外の部分から出所識別標識としての称呼、観念が生じないと認められる場合などを除き、許されないというべきである。
- 被告標章は、まとまりがよく、「恋いちご」の文字部分だけが独立して見る者の注意をひくように構成されているということはできない。
- 「恋いちご」の文字部分が苺の取引者/需要者に対して支配的な印象を与えるとはいえない。
- 被告標章における「あわ」の主たる意味は、淡い(恋心)である。地域名称としての阿波は、その副次的な意味に過ぎない。(したがって、被告標章における「あわ」には識別力がある。)
- したがって、被告標章において「あわ」と「恋いちご」は分離されない。
- 被告標章における「いちご」は、商品そのものを示す普通名詞であるから、識別力を有しない。
- そうすると、被告標章の要部(出所識別標識としての称呼、観念が生じる部分)は、「あわ恋」である。
- 本件商標の「恋」部分と被告標章の「あわ恋」部分とを対比すると、外観と称呼が相違する。観念も、恋と、被告標章から感得される淡い恋心とでは相違する。本件商標と被告標章は全体として類似しない。
4. 登録商標使用の抗弁
一審被告は、被告標章(標準文字)を商標の構成とする登録商標(第6438678号、指定商品:「いちご」)の通常使用権者でした。そこで、一審被告は、登録商標使用の抗弁を主張しました。ただし、登録商標(第6438678号)は、本件商標の後願であり、かつ一審判決口頭弁論終結時において除斥期間が経過していませんでした。一審判決は、後願登録商標により商標権侵害を正当化することはできない旨述べ、登録商標使用の抗弁を否定しました。
5. 考察
被告標章「あわ恋いちご」における「あわ」部分の主たる意味が、地域名称・阿波であるか、淡い(恋心)であるかは判断が困難です。どちらにも転びえます。どちらととらえるかが、一審判決と控訴審判決の分かれ道になりました。
なお、判決では触れられていませんが、一審原告から一審被告取引先への商標権侵害警告(2024年4月12日)に先立つ2023年6月5日時点の一審被告ウェブサイトには、下記の記載がありました。この記載は、控訴審判決の判断(被告標章における「あわ」部分は、主として、淡い(恋心)を意味する。)を支持する要素となります。

※ Internet Archive Wayback Machineに収録された一審被告ウェブサイト(https://veritas-solve.com/about-firm)のキャプチャから引用